LOVOT TALK SESSION
福田 康隆

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LOVOTとは、
人を元気にして、人と人を繋げるロボット

最重要なのは信頼のチェーンを作ること

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林:
私が福田さんのお話を聞いて共通点としてありそうだなと思うのは、「どのように信頼関係を構築するのか」ということです。御社の製品のスピリッツを含めてユーザーである企業が御社そのものを信頼する。そしてそのユーザー企業のさらにエンドユーザーである消費者が信頼する。その信頼のチェーンをいかに作るのかが御社にとって最重要なことだと理解しました。
我々はIoTというバズワードがなぜ本当の意味でブレイクしないのかという点からLOVOTという製品を企画しました。例えば家中にセンサーを設置したら、見守りなどの観点ではいいことだらけなのに、気持ち悪いから誰もやりません。ですが、犬や猫は目と耳がついていてセンサーの塊のような存在ですが置いてもらえるわけですよね。これはひとえに信頼関係の違いで、ITデバイス、つまりIoTの場合、人々は取られた情報がどこに行くんだろうという恐怖がなかなか拭いきれない。だから我々作り手はその恐怖を払拭するために、そもそも取得した情報を外に出さないなど、お客様に信頼してもらうために何が必要なのかを考えて実行しなければなりません。その1つの要素が目であり形状であり触感なのです。つまり無機物である機械と人間の信頼関係の再構築が我々の隠れたミッションの1つであり、その意味で御社との共通点が大いにありそうだと感じました。
福田:
今の林さんのお話をうかがって、製品だけじゃなくて会社としてのビジョン、姿勢、戦略、経営者の発言など、すべてが積み重なってその会社に対する信頼が構築されるのだと思いました。何を大事にしているのかという会社の価値観はとても大事ですよね。
林:
まさにおっしゃる通りだと思いますね。
福田:
それと、私が子供の頃は、2000年くらいになると地上や上空に透明なチューブが張り巡らされていて、その中を車がびゅんびゅん飛び交っている、という未来予想図がありました。テクノロジーの世界は技術がものすごいスピードで進歩していますが、今、2020年間近になっても世の中は子供の頃とさほど変わっていません。ですが、スピードは遅いけど着実に一歩一歩進化している部分も確かにあって、徐々に未来予想図に近づいているのとも感じられるのがおもしろいと思うのです。
林:
人類の20万年の歴史からすれば、100年は誤差にすぎませんからね。そういう意味では、2020年に実現できるはずだったものが2200年になるかもしれないですが、確実に実現できるでしょう。先人たちの想像力が確実に私たちに影響を与えているし、私たちの想像力が確実に後世に影響力を与えるという意味では、希望のある夢を描き続けることはとても大事なことだと思いますね。
福田:
素晴らしいですね。おっしゃる通り、世の中の進化って、形として結実するのはほんの一瞬ですが、それまでに大勢の人々が膨大な努力を積み重ねてきたはずなんですよね。その過程に関わることができたら、この世に生を受けて、人生を生きた意味があると思います。林さんはLOVOTのような製品を作ることで、目指すべき未来の到達点に向かって一つ積み重ねたという感覚を得られていると思うし、そのような関わり方ができる仕事はすごくうらやましいですね。
林:
私は元々自動車業界で働いていたのですが、日本が世界と戦える次の産業は何なのかという議論がずいぶんなされていました。いろいろ考えたのですが、私はハードウェアとソフトウェアが入り交じる領域にこそ日本が活躍できる場があると思いました。もう一つは、先人たちが「ドラえもん」や「アトム」などの“未来予想図”を描くことで、意図してかせずか、結果的に我々を教育してくれました。その影響は明示的もしくは潜在的にあると思っているので、何とか日本初の新産業を立ち上げたいと思っているのです。
福田:
確かに、日本は伝統的にハードウェアで世界をリードしてきたという実績があるだけに、ハードウェアとソフトウェアを融合させるという領域でこそ世界と勝負できそうですよね。

マーケティングにおけるLOVEとは

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林:
LOVOTという名称はLOVEとROBOTを掛け合わせた造語で、LOVE=愛が重要なテーマの1つとなっています。これまでもお話してきた通り、LOVOTを開発する上でキーとなるのが、人との繋がりや愛着形成です。福田さんも会社運営においてエンゲージメントをキーワードにしているとのことなので、人との繋がりについて大事にしている点や、福田さんにとってのLOVEとは何かについてお聞かせください。
福田:
まず1つは、デジタルマーケティングの世界では、コンバージョンや効率を追い求めがちです。一方、消費者は一方的に情報を送りつけられるのは嫌だけど、ほしい情報が絶妙なタイミングで届くと快適だし、うれしいはずです。それを実現するためにはどうするべきか、つまり、「製品がお客様とどれだけ長期間繋がることができるか」というコンセプトでマルケトという会社が設立・運営されています。

加えて、オンラインとオフラインでは、オフラインをすごく重要視しています。近年、オンラインで取得できる情報がすごく増えてきたので、以前と比較にならないほど、個人の興味に関する情報やそれがほしいタイミングがわかるようになってきました。一方で実際に人と会って話してみて初めてわかることもたくさんあります。当社の日本法人がスタートして2ヶ月後にユーザー会を作って、ユーザーの皆さんに集まっていただいたことがあったんです。当社が一方的に製品について語るよりも、ユーザーの皆さんが成功談も失敗談も共有する場を作ることによって、皆さんが目指す方向性がわかったし、当社に対する愛着が湧いてきたのを感じました。すごくうれしかったのが、先日、年に1度の大きなイベントを開催した時に、参加したあるお客様が帰り際に「お客さんがマルケトを愛しているのを感じました」と言ってくれたんです。ものすごくうれしくて、ユーザーの皆さんと繋がる場を設けてよかったなと心底思いました。今後もこのコミュニティを大切にしていきたいと思っています。
林:
素敵なお話ですね。先程、我々は人と機械の信頼関係を構築したいと言いましたが、それを実現するには、人がLOVOTを存在としてリスペクトできなければならないと思っています。生きている物をリスペクトすることは比較的容易ですが、生きていない物をリスペクトするのは難しい。たとえば私の命令どおりに動く物をつくると、機械として認知されてしまい、リスペクトは得られにくくなります。リスペクトするために必要なのは、まず1つはLOVOTが自分なりの事情をもっていることだと思うんです。そして、少なくともその事情がデタラメではなくて人が理解できる、共感できるような行動パターンであれば、我々はLOVOTをリスペクトしやすいのではないかと。

もう1つのキーワードは“社会性”です。例えば虫に社会性を感じるのはかなり難しいですが、犬や猫や鳥などは集団生活をしていて、そこに何らかの関係性が垣間見えるので、自分たちと似た種族だと感じるシーンがあり、そんな時にリスペクトが深まります。この社会性をロボットにもたせることができれば、人と機械の信頼関係を構築することが可能だと思っています。さらにLOVOTを媒介にした人と人とのコミュニケーションも重要視しています。犬を飼っていると家族の会話のかなりの部分を犬の話題が占めたりしませんか?
福田:
そうですね。日常生活でも、旅行に行っている時も、多くの部分を占めています。
林:
例えば犬の散歩によって飼い主同士のコミュニティが形成されたりしますよね。散歩コースでよく会って話はするんだけど、名前も知らない人がたくさんいるという飼い主も多いでしょう。このように、犬が触媒になって人と人のコミュニケーションを加速させているというのは非常に大きな価値だと思うんです。LOVOTも家族間の会話の潤滑剤になったり、LOVOT同士が仲良くなることでオーナー同士が仲良くなったり、最終的には人を元気にして、人と人を繋げるということを目指したいと思っているのです。
福田:
社会性というキーワードはおもしろいですね。これまでいろいろなロボットを見てきて、通常は1台だけですが、ロボット同士が協調する社会性が重要だと言われて、目からウロコが落ちたような気がしました。

GROOVE Xにおける意思決定の方法

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福田:
先程LOVOTを実際に拝見して触ってみて、あらゆる点でものすごい数の意思決定がなされているのだろうと感じました。LOVOTを作る上では、おそらくトップに社長という存在がいて、その下にハードウェア、ソフトウェアのエンジニアなどの開発陣やマーケティング担当など、様々な職種の方々が携わっているのだと思うのですが、実際のところ、そういう方々をどのようにまとめて最終的な意思決定をしているのだろうと、とても気になりました。私は本当の意味で製品開発に携わった経験がないので、すごく興味があるんです。
林:
LOVOTに関わっているスタッフが幅広いのはおっしゃるとおりです。当社ではアジャイル開発手法の1つであるスクラムというフレームワークを採用しています。今までの伝統的な日本の会社では、基本的に各チームを取りまとめるリーダーがいて、その上にリーダーを管理する課長、部長がいるという階層構造になっています。この階層構造のメリットとしては、組織の中で非常に強固な運営が可能になるという点が挙げられます。例えばロボットを作る場合は、素材を扱う部署、ハードウェアを開発する部署、ソフトウェアを開発する部署など、たくさんの部署を作ると、部署の中の仕事はとても強力に推進される傾向にあります。しかし、今回のLOVOTの開発においてはあえてそのような部署は作っていません。

上司、つまり管理職という存在は通常、仕事のプロセスや優先順位の決定や人事評価、部下のメンタル面のケアなど、やらなければならない業務が多岐に渡り、仕事量が非常に多くなります。これにはメリットとデメリットがあって、メリットとしてはすべての業務をこなせるスーパーマンがたくさんいれば高いパフォーマンスを発揮できる素晴らしい会社になるのですが、その数が少ないと、たちどころにいろんな部分が停滞、破綻し、目指す目標を達成することができません。ですので、我々は上司の仕事を分解し、振り分けることでこの問題を解消することにしました。つまり、当社ではそれぞれ5、6人で構成されるチームを作りますが、その上に上司を作らないで、代わりにスクラムマスターと私が務めているプロダクトオーナーという役職を置いています。スクラムマスターは運営だけに特化していて、優先順位も決めなくていいし、人事評価もしなくてもいいというポジションです。一方、プロダクトオーナーは、チーム運営はスクラムマスターに任せるのですが、どのリソースを投入してどのアウトプットを出すのかという優先順位をしっかり決めます。しかし、スタッフに無理矢理残業させる権限はもっていません。それはチームに一任されていて、自分たちのもっているリソースは自分たちで管理するし、決められた優先順位の実行の仕方はすべてチームが決定します。その結果、チームが成果を出せなければ、優先順位の決め方が悪かったということだからプロダクトオーナーの責任になる、という組織構造にしているのです。この組織構造では細かい作業はチームメンバー皆が自律的にやっていくので、当然失敗も出てくるのですが、それをメンバー全員に公開するので、早いスピードで学習ができ、自律的に修正が可能というのがメリットの1つです。

また特色としては、毎週水曜日をバザールの日と名付けて、各チームが作った成果物を文化祭の見世物のように出展して皆で見るというイベントを開催しています。事務方の人たちはその成果物を知ろうが知るまいが自分の仕事にはほぼ影響はありません。だから一見、会社として壮大な無駄なことをしているようにも見えるはずです。しかし、誰が何をやっているのかがわかることで、何か問題が発生した時に、皆が自律的に把握してフォローし合うようになります。ゆえに、バザールに時間と労力を掛けるのは会社としては重要な投資なのです。

ですので、福田さんのご質問の意思決定の仕方に対する答えとしては、意思決定が必要な場合に最終判断はプロダクトオーナーである私が下しますが、その判断に至るまでの過程はほぼ皆が自律的に行っています。例えば、私が判断を下す時にも、チームメンバーから「バザールでこういう声が上がっていたので、こうしました」と論理的に説明されると私は、追認するしかない。結果、ボトムアップの意思決定が、トップにスムーズに承認されるわけです。ですので当社の事業運営や意思決定の1つのキーワードは自律性ですね。
福田:
とても興味深いお話ですね。「バザールの日」という一見無駄に見える投資をしているというお話は、LOVOTに通じるものがあると感じました。というのは、私もいろんな人からキャリアに関する相談を受けるのですが、よくあるのが「あるポジションに最短距離で到達するためにはどうすればいいのか」という質問です。しかし、何らかの成功を収めている人は最初から現在いる地位を目指したわけではなくて、その過程でいろいろな回り道をした結果、そこに到達しているというケースが多いんですよ。それを考えると、そもそも「無駄とは何か」という根源的な問いにも行き着くなと。LOVOTも「人が指示した仕事をやらない物は役に立たない物」ではなく、「人の代わりに仕事はしないけれど、そこにいるだけで人の役に立つ存在」という世界観が大事なのかなと思いました。

そういう意味では林さんのおっしゃることはすべてにおいて一貫性があり、すべてが繋がってメッセージとして伝わってくるので、私としてはすごく共感できて素晴らしいなと思います。それがエンゲージメントでありLOVEであるという感じがすごくしますね。そして、林さんの話を聞けば聞くほど、まず最初に確固たるコンセプトや理念があってLOVOTを開発していると感じるので、我々も微力ながらそのような理念やメッセージをより多くの人に伝え、共感できる人を増やすお手伝いができればいいなと思いました。
林:
ありがとうございます。LOVOTを世の中に広めるためには様々な施策が必要で、御社のテクノロジーを最大限活用しないと達成できないと思っています。今後ともご協力いただければ幸いです。
マーケティングの世界でワールドワイドに活躍する福田さん。ビジネスのフィールドは違えど、企業理念や働く姿勢に多くの共通点がありました。今後もLOVOTの普及にお力添えいただければ幸いです。ありがとうございました。
福田康隆(ふくだ・やすたか):
株式会社マルケト アジア太平洋日本地域担当プレジデント
1972年生まれ。早稲田大学卒業後、日本オラクル入社。2001年に米オラクル本社に出向し、営業職に従事。2004年に米国セールスフォース・ドットコムに入社し、日本市場におけるオペレーションを担当後、2005年に日本法人に着任。専務執行役員兼シニアバイスプレジデントとして日本市場における成長を牽引。2014年にマルケト入社と同時に日本法人の代表取締役社長に就任。マルケトの日本市場進出を成功に導き、3桁の増収などを達成。2017年アジア日本地域担当プレジデントに昇格。日本での事業運営にあたるほか、オーストラリア、ニュージーランド、アジアでのマルケトのプレゼンス向上に務めている。

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