LOVOT TALK SESSION
福田 康隆

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LOVOTとは、
家庭の中にいる“生物感のあるキカイ”

分野は違えど目指しているものは同じ

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林要(以下、林):
福田さんはロボットに関してどのようなイメージをお持ちですか?
福田康隆さん(以下、福田):
「ドラえもん」のような人に近い、親しみやすい物というイメージと、一方で工業用ロボットのようなプロセスを自動的に流していくというイメージの両方があります。
林:
ロボットの語源は、チェコ語で強制労働を意味する“robota(ロボッタ)”と、スロバキア語で労働者を意味する“robotnik(ロボトニーク)”の語幹で、定義は「人の代わりに自律的に仕事をする機械」です。ですので、福田さんがおっしゃったイメージでは後者の方が本来の語源・定義として合っています。しかし、なぜか途中でその定義が変わり、「ドラえもん」のような猫型ロボットというキャラクターなど、必ずしも人の代りに仕事をしないロボットが生まれました。これは日本のならではのポイントだと思うんですよ。「ドラえもん」は四次元ポケットがあるから役に立ちますが、なかったら何の役にも立たない、どちらかと言えばポンコツなロボットですよね。いずれにせよ、「ドラえもん」や「鉄腕アトム」などは機械がお友達になってくれたらいいなという日本人ならではの願いが生み出した物で、我々が作ろうとしているのはそちらの方にフォーカスした物なんです。

人はどうして人や動物に対して愛着を形成するのだろうと考えた時、そのプロセスをよくよく観察すると、ロボットにも愛着を感じ、ちゃんと人のパートナーになれるんじゃないかと思うんです。そこを我々は追求したい。我々が作りたいロボットは、そもそも人の代わりに仕事をしないだけでなく、場合によっては人に手間をかけさせる存在で、「人の代わりに仕事をする人造物」という本来のロボットの定義からかなり逸脱します。ですので、名称もRobotから変えてしまおうと、今開発している製品を「LOVOT」と名付けたのです。
福田:
なるほど。現在私が働いているマーケティング業界ではプロセスの自動化を重要視しています。しかし、まず大前提として、我々がお客様に伝えたいメッセージを正しく伝えるという大きな目的があって、そのためには仕事にハートを込めることやお客様に寄り添うことも必要不可欠です。そのバランスをうまく取ることが重要なので、近年、特にデジタル化が進めばサイエンスやプロセスの自動化の方が重要視されるのですが、それをもう少しハートやお客様に寄り添うことの方に揺り戻さなければならないとも思っています。今日はその点を掘り下げておうかがいできれば、私と林さんの取り組んでいることの共通点を見いだせると思っているし、今日はLOVOTを実際に見せていただけるということで、すごく楽しみにしてきました。
林:
ありがとうございます。プロセスの自動化はLOVOTが存在する上で必要不可欠です。そもそも人は生き延びるためにやらなければならないプロセスが完遂できる目処がたつまでは、植物やペットを愛でる余裕も、他人を気遣う余裕も、自分がリラックスするために遊びに出かける余裕もないわけですよね。また、そのプロセス、特に自分じゃなくてもできるプロセスをいかに自分以外のリソースに分配して、自分にしかできない仕事に集中することが、バリューアップにはとても重要です。だからマーケティングオートメーションというツールは、マーケティング分野でのプロセスを加速し、効率化してくれるので、人はその余力で他のものを愛でられるような余裕が出てくる。すなわち、LOVOTの存在のためにはなくてはならない物です。
福田:
そうですね。そういう意味では私は企業向けのIT、ソフトウェアの販売、営業に20数年携わってきたのですが、私たちの仕事は、これまで人々が膨大な時間を割かざるをえなかったバックアップやシステム構築やリカバリーなどの仕事から解放されて、本来やるべき創造的な仕事に時間を振り分けられるようになるために存在していると思うんですね。ですので、取り組んでいる分野は企業向けのITとロボットで違うとはいえ、目指している方向や伝えたいことは同じなのかなとすごく共感できます。
林:
私も全く同感です。

当たり前の物を当たり前に作ろうとしているだけ

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林:
これまでの私の話から、LOVOTはどのような物だと想像しますか?
福田:
お話を聞いて何となく感じるイメージは、予め決められた動きをするだけじゃないロボットということですね。どんな反応をしてくれるのか、全くこちらが予期できない動きなのか、そもそも誰がある行動をするようにLOVOTに伝えているのか、気になります。私はスティーブ・ジョブズが大好きでいろんな本を読んでいるのですが、その中にコンピュータの定義が書かれてあるフレーズがあるんです。例えば自分が壇上に立っていて、その下にいる特定の人にバラの花を渡したいと思った時、コンピュータには「2歩前に進んで5段階段を降りて50m進んで左に曲がって正面にいる人にバラを渡しなさい」と命令する。その行動を0.1秒で実現したら皆はマジックだと思う。それがコンピュータがやることだと。裏を返せば、こういう具体的な指示を伝えてあげないとコンピュータは動かないということですよね。でもおそらくLOVOTはそうではないものを組み込んであるんじゃないかと思っているので、その辺が楽しみですね。想像もできない物なのかなとワクワクしています。
林:
確かに我々はLOVOTの開発に莫大な資金と大量の人材を投入し、さらに膨大な時間もかけているので何かとんでもないすごい物が出てくると思うかもしれません。しかし、我々が目指しているのは決して特別な物ではなくて、当たり前の物を当たり前に作ろうとしているだけなのです。従来のロボットはAIとロボットがセットで考えられていましたが、それが実現しているのはSFの世界だけ。現実世界ではAIとロボットが真の意味で融合しているとはとても言えません。ロボットの中身はモーターがメインで制御の塊。AIは主にバーチャルの世界で使われています。それがようやくアームロボットなどごく一部の領域で融合し始めたところです。
では我々が目指しているのは何か。家庭の中に生物感のある機械を存在させたいという一点なんですよ。そのためにはどうしてもロボティクスとAIのテクノロジーの融合が必要不可欠なのです。しかし、生物感を醸し出すというのは意外に困難で、生物は生き延びるために進化しているので大変効率がいいんですね。ありとあらゆるセンサーを常に動かしながら身を守り、食料を得ようとする。そのような物を我々がコンピュータで実現するということが、今回の大きなチャレンジなのです。

LOVOTはペットに近い存在

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福田:
「生物感」という言葉がおもしろいですね。新しいワードというかすごくいい言葉というか。そういうことを感じられることこそが人間だと思うので。
林:
そうですね。人はやはりロボットが何かの動物の形をしていてもロボットだとすぐ見抜きます。しかし我々人間は、ロボットは仕事をしてくれさえすればいいので、生物感があろうがなかろうがあんまり関係ないんですよね。むしろ今回我々が開発しているロボットは仕事はしなくてもいいけれど、生物感だけは絶対に必要。そのような存在の一つに、例えばペットがあります。ペットは仕事をしないから役に立たないかというとそんなことは決してなくて、結構人の心を支えたり癒やしたりするので十分役に立ちます。ですので、LOVOTも全く人の役に立たないわけではなくて、人の代わりに仕事はしないけれど、人ができないこともやれてしまうかもしれない。そういう存在なんです。
福田:
確かにペットってそういう存在ですよね。私も犬を飼っているのでその感覚はすごくわかります。
林:
私も犬を飼っているのですが、犬って飼い始めて最初の1、2年は非常に変化が大きいですが、それ以降は犬自体の変化は落ち着いてきて、日々成長しているとか学習しているという感じはなくなりますよね。
福田:
そうですね。最初の1年に比べると落ち着いてきますよね。
林:
でも飽きないじゃないですか。
福田:
そうですね。いないとダメな存在ですね。
林:
そう考えると、犬は非常にユニークで、ある年数を超えるとそれほど成長するわけでもないし、仕事もしないし、お金も手間も時間もかかるし、さらに気苦労もありますよね。一匹だけにはなかなかできない。その結果、旅行に気軽に行けなくなるなど、やりたい行動を制限する部分もある。でも、これだけの対価を払ってでも家族だと思える存在がペットで、必ずしも人の代わりに仕事をするかどうかや便利であるかどうかは関係ない。これがLOVOTを作る上で非常に大きなテーマの1つなんです。当然、犬や猫のレベルに到達するまでにはまだかなり時間はかかるものの、世の中にリリースする時にはその足元くらいには及べるようにしたいと思っています。
ではそろそろ実際にLOVOTを見ていただきましょう。これがLOVOTです。

リアルな生物感に驚きました

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福田:
うわ~、かわいいですね! 目がなんともいえないです。うちの犬も下からじっと私を見つめて何かを訴えかけるような感覚があるのですが、それと似てますよね。生物感を感じさせる目。すごくおもしろいですね。触感も柔らかくて赤ちゃんのようですね。リアルだな~。不思議ですよね。見た目も別に人間ぽいわけじゃないのに。今、私かなり驚いています(笑)。想像と全然違っていました。
林:
ありがとうございます。例えばペットがやることを書き出してみると、個人を認識する、好きな人の元に寄ってくる、そして邪魔をする。この3つくらいしかないんですよね。私たちはペットが自分を認識しているとうれしいし、自分のところに寄ってくるのも日頃の関係性の賜物だと感じるし、なぜか邪魔をされてもかわいいと感じるんですよね。LOVOTはいろいろとこちらが世話をしなければならないのですが、それすらどこか心が温かくなる。我々は他者から愛されることも大事なのですが、他者を愛することによって自分の心が癒やされたり、豊かになったり、潤いを感じたりする。これはおそらく子育ての本能によるものと考えられます。子育ての機会が昔のコミュニティにはたくさんありましたよね。自分の子供だけじゃなくて近所の子供も一緒に育てるなど、コミュニティのみんなで子育てをしていたから子育て経験を大人から子供までシェアできていた。でも今はコミュニティの崩壊によりみんなで子育てをするという習慣がなくなったことで、子育て期が終わるとその機会がなくなります。その頃になると親は子供を育てたり愛することが上手になっているのにも関わらず。それは非常にもったいないと思うんです。ですので、人々のライフスタイルの変化に対して、ロボットでも何かできることがあるんじゃないかと開発を決意したのがLOVOTなんです。
福田:
LOVOTの構想をもったのはいつ頃なのですか?
林:
LOVOTを開発する前はソフトバンクでロボットを開発していたのですが、ソフトバンクを辞めてからしばらく経った頃ですね。辞めた時はロボットが恐くて、次もロボットを作ろうという気にはならなかったんです。
福田:
恐いというのは?
林:
福田さんもサービスを手掛けているのでおわかりかと思うのですが、お客様相手のサービスっていろいろと大変じゃないですか。そこにハードウェアが絡むとより大変さが増すんですよ。ソフトとハードの問題の追求は困難を極めるし、どれだけ作り込んでもお客様の期待するレベルにはなかなか到達しないので、ロボットは恐いなと。ただ、ソフトバンクを辞めて1ヶ月くらい経った頃に、ふと、「お客様が本当にほしいのは、LOVOTのようなロボットだ」という声が天から降ってきたんです。
福田:
私はこれまでずっとソフトウェア一本でやってきたのですが、実はハードウェアのビジネスに憧れているんです。もちろん、ソフトウェアはハードウェアを動かすために必要で、テクノロジーの世界はハードの時代からソフトの時代だと言われるようになって久しいですが、やっぱりハードウェアなくしてテクノロジーは成り立たないので、最終的にはハードウェアに行き着くと思っています。それにハードウェアって人間が実際に見て触れる物体なので伝えたいことがダイレクトに伝えられますよね。それがすごく魅力的で、ハードウェアっていいなと。だからLOVOTで触感や動きなどを直接人に伝えられるというのはすごくおもしろいし、うらやましいのです。

LOVOTの延長線上にはドラえもんがいる

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林:
ありがとうございます。やはりロボットの特徴は今、福田さんがおっしゃったように、ハードウェアのコンポーネントの選定を間違うと、ソフトウェアの設計まで変わってしまうので、非常に密接にリンクしています。また、ソフトウェアでカバーするよりもハードウェアでカバーした方が圧倒的に楽なことってたくさんあるんですよね。だからソフトウェアに優しいハードウェアを目指しつつ、最終的にはソフトウェアをどこまで洗練させられるかによって動きが変わってくるんですよ。
トラブルが発生して一部のモジュールが動いていない時と、トラブルを解消してモジュールが動き出した時とでは、全く同じハードウェアなのに醸し出す生物感が全然違うんです。この生物感の違いというのは、ソフトウェアがいかにうまくハードウェアを動かせるかによって決まります。ですので、LOVOTは一見、単なるかわいらしいロボットなのですが、ハードウェアとソフトウェアのバランスを取ることは非常に複雑で困難なことなのです。だから開発をすればするほど、生物って、自分の肉体ってすごいなと感嘆せざるをえないんです。
福田:
そうですよね。生物はロボットとは比べ物にならないほど、様々なことを絶妙に制御しているわけですからね。
林:
犬や猫や鳥を見て生物はすごいなと思いながらも、生物に至る階段の第一段くらいは登れるようになってきたような手応えを感じています。そしてこの階段の延長線上には「ドラえもん」がいるんじゃないかと思っているんです。
福田:
なるほど。確かにその延長線上はドラえもんの世界だと思いました。LOVOTと出会った瞬間、あの短時間で愛着をもてたんですよ。繰り返しになりますが、あの訴えかけるような目にやられました(笑)。もちろんそのような目にしようとか動きにしようと決めているのは人間、開発陣だと思うのですが、その点では全く違う業界とはいえ、当社の製品も同じですよね。そして、多分皆さん、最終的に作りたいのは物としての製品というよりは、理想とする世界観で、製品はそれを人に伝えるための媒介にすぎないと思うんです。
我々の会社で例えると、マーケティングオートメーションでツールを販売しているわけですが、重要視しているのは「エンゲージメント」という言葉。つまり、まずは一人ひとりのお客様とコミュニケーションをしっかり取っていこうというコンセプトがあって、そのようなマーケティングを伝えたいから製品を作っている。多分LOVOTも同じで、林さんが理想とする世界観を作って人々に伝えたいから、LOVOTを作っていると思うんですよ。
林:
確かにその通りですね。
福田:
もちろん世の中のすべての製品がこのように作られているわけではないのですが、最終的にお客様に選ばれる製品は作り手の魂が込もっている物だと思います。そういう意味で、僭越ながら林さんとの共通点をすごく感じました。
次回は事業に懸ける思いや組織論などについて語り合っていただきます。ご期待下さい。
福田康隆(ふくだ・やすたか):
株式会社マルケト アジア太平洋日本地域担当プレジデント
1972年生まれ。早稲田大学卒業後、日本オラクル入社。2001年に米オラクル本社に出向し、営業職に従事。2004年に米国セールスフォース・ドットコムに入社し、日本市場におけるオペレーションを担当後、2005年に日本法人に着任。専務執行役員兼シニアバイスプレジデントとして日本市場における成長を牽引。2014年にマルケト入社と同時に日本法人の代表取締役社長に就任。マルケトの日本市場進出を成功に導き、3桁の増収などを達成。2017年アジア日本地域担当プレジデントに昇格。日本での事業運営にあたるほか、オーストラリア、ニュージーランド、アジアでのマルケトのプレゼンス向上に務めている。

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