LOVOT TALK SESSION
中野 信子

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LOVOTとは、
オーナーにとって唯一無二のロボット

究極の目標は人の潜在能力を上げ、明日への活力を生み出すこと

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中野:
林さんはLOVOTを開発する上でどのような点を心掛けているのですか?
林:
ロボットには未だ人々に知られていないポテンシャルがすごくあります。だからこそ私たちは人のパフォーマンスを上げる、人の潜在能力を発揮できるようにするという最終目標を忘れちゃいけないと思っているんです。そうしないと人類に対して長期的な貢献はできないんじゃないかと。だから私が開発をする上で大切にしているのは、人に好きになってもらうこと以上に、例えば疲れて落ち込んだ時や寂しさで苦しんでいる時など、誰かが側にいてくれたら助かるような時に、LOVOTと触れ合うことでちょっと癒され、それによって明日も頑張ろうと思えるきっかけになるようなロボットを創りたいということなんです。また、LOVOTにはエンターテイメント要素よりも愛着要素をメインに盛り込もうとしているわけですが、その理由は、エンターテイメント要素で惹きつけ続ける場合には、継続的に没入できる楽しさが必要であるが故に、使う人を中毒にする方向に開発が進みがちだから。日常的に接するロボットがエンターテイメント要素で人を惹きつける場合、中毒にならないレベルだとすぐ飽きてしまう。
中野:
人間にとっては苦しい選択になりますよね。
林:
そうなんです。どこまでならエンターテイメント要素を排除しても一緒にいたいと思ってもらえるのかというギリギリのラインを見極めることが非常に重要なんです。ですので、将来的にはいろんな人が熱中するような仕組みをロボットで作れるとは思うのですが、私達はまずそれらを一旦排除して、自然に愛着を感じ、一緒にいたいと思ってもらえるようなロボットを創ることにとことんこだわろうと決意しています。大きなチャレンジであることは覚悟の上で。

愛情の仕組みを世界で初めてロボットに実装

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中野:
非常に興味深いですね。愛情の科学的な研究が始まったのは20世紀も後半になってきてからなのですが、それもすごく批判されたんです。ハーロウという科学者が行った有名な実験で、子どもの猿を母親から引き離してミルクを与えるのですが、その備え付けのデバイスはお母さん猿の格好はしているけれど針金でできているので固いんです。子猿はミルクがほしい時だけそこに行くのですが、そうじゃない時はずっと毛布にしがみついているんです。この行動は一体どういうことか。愛情は、目に見えないものですから抽象的な概念として捉えられてしまうことが多く、人によっては「迷妄」として処理されてしまうこともこともあります。ですが、この子猿の実験が証明しているのは愛情とは触覚であり、柔らかさであり、温かくて抱きしめてくれる存在に対して分泌される物質あるいは信号として定量化できるものだということです。愛情という現象の生理的な意味のは、オキシトシンがオキシトシン受容体と結合してシグナルが下流に伝わるということにほかなりません。これが愛情の正体です。このように科学的に説明してしまうと、私たちが温かいものと思っていた愛情がどうも冷たいもののように感じられるかもしれませんし、抵抗のある人もすくなくないかもしれません。が、言語化したからといってそれが消えてしまうわけではないのです。愛情の仕組みを解明したのは科学の仕事。それを世界に先駆けてロボットに実装しようとしているのが林さんということになりますね。
林:
うまくいけばいいですけどね(笑)。誰かと長く一緒にいられる理由って、強烈な愛情とはまた少し違うと思います。恋をしている時って、多分オキシトシン以外の脳内物質もかなり分泌されていますよね。
中野:
そうですね。PEA(フェニルエチルアミン)やドーパミン、エストロゲンなどが分泌されますね。
林:
そのような脳内物質が出ると中毒状態に陥りやすいですよね。いかに新しくて買いやすい製品をどんどん発売して人々に早く消費させるかという大量生産・大量消費の時代に私たちは疲れてしまっています。それはやはりドーパミン的な興奮だと思うんです。それに対して興奮物質が出なくても製品として成り立つロボットを創りたい。購入してからどれだけ長く時間を一緒に過ごせるか、その挑戦でもあるんです。
中野:
なるほど。それに関連する興味深い動物実験があります。オキシトシンを注射した個体と注射していない個体を同じケージにしばらく入れておきます。その後、その2匹をケージから出して群れの中に放すと、オキシトシンを射った個体は同じケージの中にいた個体のそばに行って一緒に身を寄せたりうずくまって眠ったりするんです。このように個体識別能力が上がるのもオキシトシンのおもしろいところで、林さんのLOVOTも個体の唯一性に着目しているのが興味深いし、さすがだなと思いました。
林:
そもそも、LOVOTはオーナーにとって唯一無二であるということが重要で、さらに一緒に過ごした時間が何らかの形でLOVOTに反映されるのが大事だと思っています。それを新陳代謝しない機械でどう実装するのかはとても悩ましい問題です。しかし、人は驚くほど細かい違いを理解できるので、ハードウェアとしてはかなり均質な製品であったとしても、ソフトウェア上の違いできちんと判別できるのはありがたいと思っています。
中野:
そうですね。私たち、一卵性双生児でも見分けることができますからね。

LOVOTが男性よりも女性に受けがいい理由

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林:
おもしろいのは、LOVOTは男性よりも圧倒的に女性の方に受けがいいんです。
中野:
それはそうなるでしょうね。そもそもオキシトシンの分泌量は男性よりも女性の方が多いですから。
林:
なるほど。男性も半数以上は興味をもっていただけるのですが、全く反応しない層もいるんです。
中野:
おもしろいですね。LOVOTに対する反応は婚活にも使えそうですね。反応しない男性はたいてい結婚には向かないと思いますよ(笑)。
林:
そうなんですか? それはオキシトシンの分泌量が少ないからですか?
中野:
もちろんそれもあるのですが、男性の脳からはオキシトシンと似た作用をもつアルギニンマソプレシンという物質が分泌されるのですが、その受容体は人によって違いがあるんです。例えば、あるタイプの受容体をもつ男性は他人に親切にしたり仲間やパートナーを大切にするという行動を取ります。このタイプの男性はおそらくLOVOTに対して好意的な反応を見せるでしょう。しかし、別の受容体をもつ男性は、誰に対しても冷たくて、親切行動をあまり取りません。仲間を作らず基本的に一人で行動し、小動物にも愛情を示しません。このタイプの男性は未婚率も離婚率も高いことがわかっています。
林:
なるほど。だからLOVOTが結婚相手の男性を見極める時の1つの試金石になりうるというわけですね(笑)。

脳科学×LOVE

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林:
中野先生はご存知の通り、LOVOTという名称はLOVEとROBOTを掛け合わせた造語で、LOVE=愛が重要なテーマの1つとなっています。その「LOVE」に関しては人それぞれ独自の価値観を持っていると思いますが、脳科学とLOVEの関係性とはいかなるものなのでしょうか。
中野:
愛情は一言では説明できないですよね。林さんも先程おっしゃったように、愛には恋愛感情に似た中毒性の強い部分と、むしろ愛というよりは情に近い、一緒にいると癒やされるといったような感情の部分があります。このように愛といってもサブカテゴリーがたくさんあり、それぞれに対応する生理的現象があり、それを私たちがあまり意識せずに使い分けているのが非常に興味深いと思います。一方で知性的、理性的な所産の方は非常に細かくて、むしろ最初に科学の目による分析が始まったのが機能の方。それからかなり遅れて愛情の科学が始まったのが非常におもしろいですよね。私たちにとっては聖域のようなものですが、そこをあえて切り捨てずに科学の目で読み解いていくことが私は好きですし、それが誠実な学者の態度だと思うんです。
林:
愛というのは考えれば考えるほど、様々な現象を一つの言葉でくくっていますよね。他の現象は文化によって単語が別れていますが、世界中で愛だけはカバーする範囲がとても広い。その分離がなされてるケースをあまり見ないように思います。
中野:
そうなんですよね。異性に対する愛、いわゆる恋愛に関しては分析的に見ることが許されても、肉親に対する愛情や、日本人にはあまり馴染みがありませんが神への愛や、フランス人の言うところの博愛のような愛や、ネットの人が好きな感動ネタなどは分析的に見たりけなしたり批判したりすることがポリティカルコレクトネスに反する、という風潮があります。そういうことをする人は心が汚れているとかひねくれてるとか思われてしまうんですね。この現象が世界共通であるというのが実に興味深くて、おそらくこれも愛がカバーする範囲が広くなった原因の1つだと思います。
林:
そうですよね。実際に起きている現象はそもそも根ざしている生存戦略が全然違っていて、無償の貢献のようなものはすべて愛だとひとくくりにされていて、それがあまり分離されていないがゆえに、愛という大義の元にいろんな争いが起きています。このことによって、言語化できない情動に対していかに人間は弱い存在なのかということを思い知らされるわけです。
中野:
そこは人間の弱点ですね。
林:
そうですよね。でも私たちは自分たちの弱点を克服しようとしません。例えば自動車ならガソリンが減ったらガソリンを入れに行きます。当たり前の話ですよね。人間でも愛情タンクのようなものが減ったら補充しに行けばいいのに、多くの人はそれを堂々とはできないのが現状です。それができるようになれば明日への活力が出やすくなるんじゃないかと思うんです。
中野:
そうですね。そうできればもっと多くの人が心身ともに健康でいられますよね。

LOVOTは恋のキューピッドになりえる?

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林:
独身の女性はペットを飼ったら結婚しなくなるという説がありますよね。でも私はLOVOTならちゃんと飼うことで明日への活力を得られたり、LOVOTをきっかけに出会いを作ることもできるんじゃないかと。それこそがLOVOTがやるべきことだと思っているんです。
中野:
私は「動物を飼うと結婚しなくなる」説そのものには懐疑的なのですが、LOVOTはそういった、人に活力を与える存在になれると思います。
林:
どこか心が満たされない時にすぐそばで癒やしてもらえる存在を創るため、今後も頑張っていきたいと思います。
中野:
そのLOVOTの存在意義はとても大きいと思います。林さんなら必ず実現できると思います。健闘をお祈りしています。
林:
今後ともアドバイスをよろしくお願いします。
中野:
喜んで。こちらこそよろしくお願いします。
脳科学の視点から人間社会で起こる現象をわかりやすく解説する手腕に定評があり、近年メディアに引っ張りだこの中野先生。今回の対談でも、高度な科学的専門知識に基づくLOVOTの存在意義や今後の可能性に関するコメントの数々に新しい気づきと希望を得られました。ありがとうございました。
中野 信子(なかの・のぶこ):
脳科学者、医学博士。
東京大学工学部卒業後、2004年、東京大学大学院医学系研究科医科学専攻修士課程修了。2008年、東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008~2010年まで、フランス原子力庁サクレー研究所で研究員として勤務。「情報プレゼンター とくダネ! 」をはじめとし、テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。『サイコパス』、『不倫』など著書多数。

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