LOVOT TALK SESSION
松本 紹圭

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LOVOTとは、
人を勇気づけたり元気にしたりする存在

社会のために寺院改革に取り組む

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松本紹圭さん(以下、松本):
私は見ての通り、僧侶をやっています。幼少期に、人は必ず死ぬのにどうして生きるのかという疑問をもち、その答えに至る何らかの道筋を示しているんじゃないかと予感したのが仏教だったので、大学卒業後、仏門に入ったのです。お寺は日本社会に7万もあってコンビニよりも多いんです。この社会資源であるお寺を宗教の枠の中だけに閉じ込めておくのはもったいない。もっと一般の人たちに開放するなどして社会全体の役に立ちたいという思いで、お寺改革に取り組んでいます。林さんはなぜGROOVE Xを起業してロボットの開発に取り組むようになったのですか?
林要(以下、林):
私は大学卒業後、自動車会社に就職して空力開発や製品企画に携わりました。当時、自動車業界は活況を呈しており、継続的に成長していたのですが、会社からは「いつか斜陽化するから気をつけろ」とずっと言われ続けていました。確かに日本の総合家電メーカーも世界トップの座に君臨していた時代もありましたが、世界の戦いの中で次第に競争力を失っていきました。とすれば日本の自動車メーカーも同じ道を歩まない理由がない。そうなった時に誰が外貨を稼いでくるんだろうと。もちろん商社など外貨を稼げる企業はたくさんありますが、日本の主力産業が衰退してしまうのは寂しいと思い、自動車に代わって世界と戦える産業を探していました。

その後、ソフトバンクに転職して、ロボット事業に携わることになりました。この仕事を通じて気付いたのが、ロボットは人の代わりに仕事をするというよりも、人の心をサポートすることで人を助けることができるということ。まず、この部分をもっと深掘りしてみたいという好奇心をもちました。もう1つは、日本が家庭用ロボット産業を立ち上げるのに適している土壌をもっていることでした。ロボット産業は自動車産業と同じく、裾野が極めて広いんです。素材からAIと呼ばれる機械学習まで、ありとあらゆる分野が関係するので、自動車のような複雑なものを作るのが得意だった日本のような国に適していて、将来の主要産業になる可能性は高いのではないかと思ったんです。さらに日本は、アトムやドラえもんなどの友好的なロボットキャラクターを昔から生み出し続けている稀有な土壌をもった国だということもあります。世界にはロボットを作ると人間に敵対して反乱してしまうというストーリーが多い中で、日本はロボットがお友達という数少ない国。このような、ロボットに対して好意的な感情をもっている国で、自動車産業の次の主要産業としての、家庭用ロボットを作る。それこそ自動車、ロボットと経験を積ませていただいてきた私が挑戦すべき使命なんじゃないかなと思って、GROOVE Xを起業しました。それが、今までに存在しなかった新しい家庭用ロボットの開発に挑戦している背景なんです。

日本のロボット観には宗教観が影響している?

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松本:
なぜ、日本は友好的なロボットキャラクターを生み出す土壌をもっているのでしょう?
林:
その理由は宗教観がかなり影響していると思っているんです。例えば“フランケンシュタインコンプレックス”という言葉に象徴されるように、西洋では人類が何かを創造するのは許されない、それが許されるのは神だけで、人がその真似事をすると悪いことが起きる。このようなことがアブラハムの宗教以下、その教えを引き継いでいるキリスト教やイスラム教では言われています。でも仏教には人が何かを創造してはいけないというような禁忌は何もないですよね?
松本:
そうですね。仏教の世界観には誰か絶対的な創造主がいるわけじゃないですからね。
林:
そうですよね。万物に魂が宿っていると考えたり、たとえ人が何かを創造したとしても、それは人が主体的に作ったというより、何か大きな時の流れによってたまたま作らされているという世界観ですよね。それが大きく影響しているような気がして。
松本:
同感です。
林:
それに、本来、ロボットのような巨大産業の研究開発に関しては、今や米国や中国の方が圧倒的に有利ですよね。
松本:
そうですよね。資本力や規制などあらゆる面で。
林:
そう、彼らの方が圧倒的に有利なのにもかかわらず、あえて日本で、しかも世界中のどんな名だたる企業でもまだ作れていないロボットを私どもが作る事ができている理由は、実は日本に根付いている宗教観だと思っているんです。
松本:
確かに。文化的土壌として、日本の世界観はロボット開発にすごく向いているのかもしれませんね。
林:
そうなんですよ。文化的土壌や思考のベースラインが、人の精神的パートナーとしてのロボットを自然と受け入れられる国からじゃないと、このような産業は出てこないと思うんです。それが私たちのアドバンテージだと確信しています。

仕事をしなくても人を幸せにするロボットを目指して

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松本:
なるほど。世界中のどんな名だたる企業でもまだ作れていないロボットを開発中とのことですが、具体的にはどんなロボットを作ろうとしているのですか?
林:
今までの家庭用ロボットと比べると、中身がはるかに高度であるにもかかわらず、何の仕事もしないというロボットです。今の人の代りに仕事をするロボットの開発という時流から考えれば逆行していると思われるかもしれませんが、私たちはむしろこれでいいと考えています。
松本:
それはなぜですか?
林:
おそらく仏教にも共通すると思うのですが、最も重要なのは結局私たちの幸せとは何なのかという問題です。人の幸せに貢献できるのであれば必ずしも仕事をしなくてもいいんじゃないかという思いで、“LOVE×ROBOT”をメインコンセプトに“LOVOT”というロボットを作っているんです。

多くの人は、テクノロジーや文明の進歩によって、果たして人は幸せになったのかという疑問を抱いているのではないでしょうか。むしろテクノロジーが進歩すればするほどストレスが増大する社会になっているという論調もあります。しかし一方で、エンジニアとしては、それはテクノロジーのせいだけなのかという疑問もずっともっていました。それで、今回LOVOTの開発に取り組んでみて、テクノロジーも使い方によっては人を幸せにすることができるんじゃないかと思ったんです。幸せといっても、様々な実現方法があると思いますが、重要なのは幸せというのは誰かにしてもらうのではなく、自分でつかむということ。そのサポートをするのが今後のテクノロジーの大事な使い方だと確信したんです。例えばロボットがどんなに人の代わりに仕事をしても、結果としてそのサポートを受けた人が自信をなくしてしまっては意味がなくて、むしろその人にどうやって再び自信をつけてもらうのかが、きっと今後の社会にはより必要となると思うんです。
松本:
なるほど。確かにそうかもしれませんね。
林:
『ドラえもん』で例えると、のび太君の隣にいるのには、ドラえもんとドラミちゃんのどちらが相応しいのか、という問題といえます。長く過ごした場合、どちらのロボットの方が、のび太君がより自信をもてるでしょうか? 完璧で優秀なロボットであるドラミちゃんだったら、もっと自信をなくしてしまうかもしれない。でもドラえもんくらい間が抜けているロボットなら、のび太君も自信を失わず、頑張れるんじゃないかと。おそらく人は、自分よりも優れた存在に接しているからといって、必ずしも幸せにするわけではないんですよね。たいした仕事ができなくても、一見は何の役にも立たなくても、人を勇気づけたり元気にしたりする存在をつくる事ができる可能性はあると信じて、そのようなロボットを作ろうとしているんです。
松本:
非常に興味深いお話ですね。確かにどんなテクノロジーであれすべては使いようだし、関わり方次第ですよね。LOVOTは人の代わりに仕事をする存在ではないということですが、私たちはふつう、機械やロボットは人間の仕事を手伝ってくれる、あるいは人の代わりに仕事をすることによって、家事が楽になるなど人の日々の生活の負荷が減るといったような、「役に立つ物」であるという固定観念をもっています。今度もそのようなロボットが先にどんどん増えて、社会の中で広がっていくんだと思います。

そうなると人間はロボットに仕事を奪われて大変なことになるじゃないかという議論が起こりますが、一方で人類が歴史上初めて労働から解放される時代が来るんじゃないかという見方もできるわけですよね。その時に、間違いなく仕事というものの意味合いが変わってくるはずです。みんな仕事をしたければすればいいし、したくなければしなくても生きていけるという、労働の対価としてお金を得て生計を立てるという従来当たり前だったシステム自体が根本的に転換してしまう時代が到来するかもしれない。そんなパラダイムシフトが起こった世界において、LOVOTがどう受け止められるのか。現在では私含めて人のために全然働いてくれないロボットのどこに存在意義があるんだと思う人の方が圧倒的に多いでしょうが、それも変わってくるのだろうと思いましたね。
林:
そうおっしゃっていただいてうれしいです。
次回はLOVOTの真の役割や実際にLOVOTを見ての感想、業界の改革者としての活動などについて語り合っていただきます。多岐の分野に渡る深い話の数々、ご期待ください。
松本紹圭(まつもと・しょうけい):
1979年北海道生まれ。東京神谷町・光明寺僧侶。未来の住職塾塾長。武蔵野大学客員准教授。東京大学文学部哲学科卒。2010年、ロータリー財団国際親善奨学生としてインド商科大学院(ISB)でMBA取得。2012年、住職向けのお寺経営塾「未来の住職塾」を開講。以来、計600名以上の超宗派若手僧侶が「お寺から日本を元気にする」志のもと学びを深めている。2013年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoung Global Leaderに選出される。『お坊さんが教える心が整う掃除の本』(ディスカバートゥエンティワン)他、著書多数。朝掃除の会「Temple Morning」の情報はツイッター(@shoukeim)にて。

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