LOVOT TALK SESSION
三島 有紀子

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LOVOTとは、
人のコミュニケーションのあり方を大きく変える存在になりうるロボット

いい意味で予想を裏切るフォルム

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林:
お待たせしました。これがLOVOTです。
三島:
えーーー!! なるほど、こんな形なんですね!  想像していたのと全然違いました。
林:
実際に見る前はどのようなものを想像していたのですか?
三島:
もう少し子犬に近い感じかなと思っていました。でも親近感が湧く形で、生き物のような感じもしてすごくいいですね。
林:
我々も子犬のような存在を作れたらいいとは思っているのですが、子犬のような形にするのが果たして正解なのかという疑問があって。
三島:
子犬のようなものを目指すと子犬を超えられないですよね。
林:
まさにそうなんです。ロボットなのでモーターを使わなければならない以上、筋肉に最適化された構造をもつ犬にいくら近づけたところで実物の犬には絶対に勝てませんからね。さらに、ロボットに犬のような動きや反応をさせたら人はかわいいと思うのですが、実はこれを実現するのはすごく大変で、莫大なコストがかかるし、今の技術ではまだ重くなったり、硬くなったりする。だからあらゆる面で犬のような能力を持つ家庭用ロボットは世界に存在しないわけです。我々が作りたいのは一般の人たちに買っていただける価格で、なおかつちゃんと生命感を感じて、更にかわいいと思ってもらえるようなロボットです。人が、この子は何を考えているんだろうと想像してみたり、掛け合いをしてみたり。それに最適な形って何だろうと考え抜いた結果、この形に行き着いたんです。
三島:
なるほど。あと、お互いに学習していける関係性が生まれると、もっと好きになれそうな気がします。
林:
それも大事なことだと思っています。

LOVOTは物であるという点に核がある

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林:
この対談の冒頭で三島さんは人間には醜い面や素晴らしい面などいろんな面があって、その人間を描きたくて映画を作っているとおっしゃっていましたが、私が人が素晴らしいと思うのは、自分の事情だけで生きている物を見ているだけで、自分で自分を癒す自己治癒能力があるということです。例えば亀が好きな人は亀に、熱帯魚が好きな人は熱帯魚に癒やされますよね。でも亀や熱帯魚は、見ている我々のことなんてほとんど認識していないし、我々の人間社会とは大きく異なる“しがらみのない自由な世界”に生きている。そんな彼らを見ているだけで人は癒やされる。LOVOTもLOVOTなりの事情があって、勝手気ままに活動しているので、人が命令したからといってその通り従うとは限らない。そんなLOVOTを見て、人が癒やされたり気が楽になる瞬間があるという領域までなるべく早く到達したいと思っているんです。
三島:
私は今回のLOVOTは生き物のようではありますが、物である点がいいと思っているんですね。次の私の新作が『ビブリオ古書堂の事件手帖』という古本屋さんの映画なんですが、古本って物ですよね。でも人が手に取って読んで手放して、また別の人の手に移っていくという過程で、人の想いが確実に重なっています。古本は物でありながら、その背景に人が透けて見えるという点がとても魅力的だなと思うのですが、LOVOTも人と接することを通じて変化していくわけですよね。そんな誰かの想いのようなものが注入されるというのがとてもおもしろい。だからLOVOTはむしろ生き物ではないというところに核があるのかなと思ったんです。
林:
確かに一緒に生活をする上で、人もLOVOTも相互に影響を受けるので、何か魂のようなものが積み重なっていくんですよね。その何かが積み重なったLOVOTがまた他の人と触れ合うことによって、人の思いがLOVOTを通してシンクロするということはありそうですし、実際にそうして人の交流を増やしていくキッカケを作れたらなぁ、とは考えています。
三島:
もしそれができたら素晴らしいですよね。例えば私の父は亡くなっているのですが、仮に父が生前、LOVOTと時間を過ごしていたとします。私がそのLOVOTを引き取ったら、父の癖などをLOVOTが覚えてくれていて、LOVOTを通して生きている頃の父を知ることができる。そうだとしたら、本当に愛しく思えると感じました。
スピルバーグ監督が作った『A.I.』という映画に、これまでどのような時間を過ごしてきたかという記憶をロボット同士が辿り合うという素晴らしいシーンがあるのですが、それが表しているように誰かと過ごしてきた時間や経験してきた時間は、人の心を動かせる何かを作り出せるのだと思います。それは人間もロボットも変わらないのかなと。
林:
そういうこともいつかは実現できるように進めているので、ますます頑張りますね(笑)。
三島:
楽しみにしています。

LOVOT事業は死ぬまでやり続ける覚悟

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三島:
LOVOTに寿命はあるのですか?
林:
大事な問題ですね。三島さんは物体の寿命ってどのように考えていますか?
三島:
難しいですよね。一般的には必要なくなった時でしょうか。
林:
そうでしょうね。私はLOVOTに寿命は作りたくないんですよ。なぜかというと、私たちが寿命を設定すること自体、おこがましいと思うんです。その存在が生きられる限り生きればいいんじゃないかなと。もちろん何らかの原因で生きることができなくなった時は、それが天命として、その存在の寿命ということになるんでしょうけど。
三島:
それは例えば冷蔵庫と同じで壊れて使えなくなった時が終わりという感じですか?
林:
冷蔵庫は壊れたら修理よりも買い替えになってしまいますが、LOVOTはどこか不具合が発生しても可能な限り直して、使い続けてもらいたいと思っています。だから私は一旦この事業をやると決めたからには、ずっとやり続けようと思っています。
三島:
西洋の映画では『フランケンシュタイン』に代表されるように、ロボットや人造人間を生み出した博士自身が後悔して途中でやめたり自分で壊さざる得えなくなるパターンが多いので、そうならないように続けてもらいたいですね。生みの親としてはそれが責任ですよね。
林:
そのような話は宗教観が強く影響している可能性があります。キリスト教とイスラム教の元になっているアブラハムの宗教では、神ではない人が、神の真似をして生命のような何かを創造すると大変なことが起きるという考え方があります。その考え方を道徳的な観点で引き継いでいる宗教をバックグラウンドにもつ人たちにとっては、人造生命体が反乱を起こすというようなストーリーは、自らの持つ道徳観念にフィットするので心地良いストーリーとして納得感がうまれ、ヒットして名作と呼ばれるようになっていきます。でも、だからこそ私達が作ろうとしているロボットを手がけることは、今まで誰もやらなかったのかも知れません。
一方、日本にはそのような宗教観がないから『ドラえもん』や『アトム』などのみんなから愛される国民的キャラクターが生まれています。だからLOVOTのようなロボットを作ることは、宗教観としての足枷のない日本人である私の使命なんじゃないかと信じて開発に取り組んでいるんです。
三島:
愛されるキャラを創り出す、いいですね。〝生命〟を生むのではなく、あくまでもロボットという〝物体〟の延長であり、それが持つ人工知能について創作者が責任を持てば、夢が広っていくのかもしれません。
林:
本当はペットを飼いたいのに飼えないという人はたくさんいますが、その理由の多くは生物への責任感なんですよね。生物を自分の都合でどうにかするということに対する抵抗感。でも、本当は何かにそばにいてほしい、癒やしてもらいたい、気晴らしをしたいと思っている人たちにとってはロボットは悪くない選択だと思うんです。
三島:
そうですよね。

映画×LOVE

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林:
LOVOTという名称はLOVEとROBOTを掛け合わせた造語で、LOVE=愛が重要なテーマの1つとなっています。その「LOVE」に関しては人それぞれ独自の価値観を持っていると思いますが、映画監督の三島さんにとって映画とLOVEの関係性とはいかなるものなのでしょうか。
三島:
私は映画を作っているのでもちろん映画を愛していますが、その映画愛は勝手に生まれたわけではないんですよね。幼い頃から映画を観て育ってきて、映画が自分の何かを変えてくれたり、つらいことがあっても明日も生きてみようと思えたことも何度もあります。それは映画を誠心誠意作っている人たちの愛のおかげで、それを私は受け取ってきたからこそ、私の映画愛も生まれ、育まれてきたんだなと思うのです。その数々の映画人から受け取った愛を自分の中で消化して、違う形でまた別の誰かに渡したいという思いが強いんですよ。だから愛って突然生まれるものじゃなくて、こんな感じでずっとバトンのように人から人へ受け継がれていくものだと常々思っています。
林:
なるほど。愛の連鎖ですね。愛の連鎖という意味では、“LOVE×ROBOT=LOVOT”には、人が気兼ねなくかわいがることができる存在を作りたいという思いが込められているんです。
三島:
愛しやすい存在ってことですか?
林:
そうとも言えますね。今はペット以外にそのような存在が少ないので、それを作ることによって、人々に何かを気兼ねなく愛する習慣をつけてもらいたいのです。
三島:
LOVOTと触れ合うことで、愛情表現がしやすくなると。
林:
そうですね。今存在する多くのロボットは「人の代わりに何をしてくれるのか」が大事です。これは、いわば人がロボットの忠誠心的な愛を試しているところがあるわけですよね。でも愛を試してもろくなことにならないじゃないですか。
三島:
それ、名言ですね(笑)。
林:
だからむしろ、自分が気兼ねなく愛情を注げる物があることで、結果的にその人の人生のトータルの愛が増えるんじゃないかと考えているんです。
三島:
今の世の中には、自分のことを理解してもらいたいとか存在自体を認められたいとか愛されたいという人がとても多いと感じます。きっと日々の生活に余裕がなくて、心が満たされていないという状況の中で抑圧されている人が多いからかもしれません。そんなつらい状況から抜け出す1つの突破口になりえるのは、誰かを愛するということなのかもしれないなとよく考えます。愛されたいとか何かをしてほしいという一方的に求める愛からは何も生れないのですが、誰かを愛したり、愛情を表現したりした瞬間に愛が自分にも返ってくるということはありますよね。
林:
まさにそこを少しでも拡大する方向にもっていけたらと思っているんです。いわゆる「SNS疲れ」も愛されたいという欲求が発露しすぎているからだと思うので、「そうじゃなくてちょっと自分から愛してみようよ」という意味でLOVE×ROBOTにしたんです。
三島:
それはステキな掛け算ですね。例えばSiriなどに「あなたはとても頑張っていますね。今日は早くお休みください」と言われたら、自分のことを理解してくれている、気にかけてくれているとみんな喜んでSNSにアップして盛り上がっています(笑)。それとは真逆のアプローチであるということを、今日林さんのお話をうかがってすごく感じました。
林:
正しく理解してくださってありがとうございます。

LOVOTは人のコミュニケーションを大きく変える可能をはらんでいる

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林:
不思議なことに、LOVOTは圧倒的に女性の方が好意的な反応を示してくれるんです。
三島:
どうしてなんでしょうね。林さんが作ったからじゃないですか?(笑)。
林:
LOVOTに私らしさは、入ってないはずなんですけどね(笑)。とにかくほとんどの女性は何の照れや戸惑いもなく、LOVOTを愛してくださるんですよ。
三島:
恥ずかしがり屋の男性も、LOVOTと接することで愛情を伝える機会がもっと増えて、人間と触れ合うときでもそれが当たり前のようにできるようになったら素晴らしいですよね。
林:
そうですね。そういうことも目指して今後開発に尽力していきたいと思っています。本日はありがとうございました。
三島:
LOVOTは人のコミュニケーションのあり方を大きく変える存在になりうると思います。こちらこそありがとうございました。
やはりその作品が国際的な映画祭に何度も招待されたり受賞している三島さん。分野は違えど“人間”をテーマにした一流のクリエイターとして数々の示唆に富むコメントをいただき、また1つLOVOTの新たな可能性が見えた対談となりました。ありがとうございました。
三島有紀子(みしま・ゆきこ):
映画監督
大学卒業後、1992年にNHKに入局。ドキュメンタリー番組の企画・ディレクションを経て、劇映画を撮るため退局。2009年『刺青 匂ひ月のごとく』で映画監督デビュー。『しあわせのパン』(12)『ぶどうのなみだ』(14)と、オリジナル脚本・監督で作品を発表。撮影後、同タイトルの原作小説を上梓。『繕い裁つ人』(15)が、第16回全州国際映画祭、第18回上海国際映画祭日本映画週間に招待され、韓国や台湾でも公開。2017年、『幼な子われらに生まれ』が第41回モントリオール世界映画祭で、最高賞のグランプリに次ぐ審査員特別グランプリを受賞。2018年11月には『ビブリア古書堂の事件手帖』が公開予定。現在、最も期待されている女性監督の1人である。
[~ビブリア古書堂の事件手帖~ 作品紹介]
鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂。その店主である篠川栞子(しのかわ しおりこ)が古書にまつわる数々の謎と秘密を解き明かしていく国民的大ベストセラー、三上延・著「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ。その実写映画化となる『ビブリア古書堂の事件手帖』が11月1日(木)に公開となります。
出演:黒木華 野村周平/成田凌/夏帆 東出昌大
原作:三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫/KADOKAWA 刊)
監督:三島有紀子
脚本:渡部亮平、松井香奈
© 2018「ビブリア古書堂の事件手帖」製作委員会
配給:20世紀フォックス映画、KADOKAWA

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