LOVOT TALK SESSION
林 信行

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LOVOTとは、
左脳でっかちをリセットできるロボット

テクノロジー×LOVE

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要:
冒頭でお話した通り、LOVOTという名称は、LOVEとROBOTを掛け合わせた造語で、LOVE=愛が重要なテーマとなっています。信行さんはテクノロジー・ジャーナリストという職業領域の中で、LOVEについてはどのようにお考えですか?
信行:
そもそも僕がテクノロジーに興味をもった最初のきっかけは、少年時代に見た、人や物が画面から飛び出ている3Dテレビや空中に張り巡らされた透明なチューブの中を人や車が走っているというSFの映画や漫画、絵本などに描かれていたビジョンです。現代でもまだ実現していないものも多いですが、夢のような未来図を見て、強い興味や憧れをもったからこそ、その実現に必要なテクノロジーにも興味をもったのです。テクノロジー・ジャーナリストという仕事を始めたきっかけはビジョンに対してのLOVEでしょう。そこでテクノロジーの最先端の動きを観察し始めると、人類を前進させるような素晴らしいテクノロジー製品が出てきては、世の中にあまり知られないまま商業的に失敗して、消えていくのを何度も見てきました。僕はそんな事例を見る度に悔しい思いをしてきました。だから、そのような悲劇をなくすため、要さんのように人類を幸せにする素晴らしいビジョンや未来の実現を目指して新しいテクノロジーを開発している人や、そのような人が作った製品、そしてその裏にあるビジョンを1人でも多くの人に伝えたいという思いでテクノロジー・ジャーナリストになったわけです。しかし、長くテクノロジー業界で仕事を続けていく中で、次第に違和感も大きくなっていきました。
要:
それはどんな気付きだったのですか?
信行:
他のテクノロジー・ジャーナリストたちの多くは、テクノロジーそのものに対してものすごく強いLOVEをもっています。それに対して、僕は強い違和感、危惧をもったんです。彼らはテクノロジーが好きすぎるがゆえに技術的な専門領域にばかり興味をもち、A社の製品よりB社の製品の方が3000円安くなったとか、処理速度が5%速くなったといった製品のスペックにしか関心がないように感じました。そうなると当然、テクノロジー系のメディアもスペックがメインの記事ばかりになります。それを読んだ企業の技術者たちは「やはりスペックが大事な価値観なんだ。じゃあうちも次はもっと頑張ってスペックを上げなきゃ」という方向に行ってしまう。つまり、スペック至上主義のジャーナリストが日本企業をスペックシート競争に導いているという面もあると思うんです。それは経済をある程度回すことに寄与するかもしれないし、そもそも日進月歩のテクノロジーの世界でスペックアップは自然のなりゆきとして起きることですが、一方でそれが人々を幸せにするとは思えませんでした。’90年代に家電量販店が巨大化した頃からだと思うのですが、多くの人々は電気製品を購入する際、同種の製品のカタログの最後のページにあるスペック表を見比べて、機能の多寡の差で商品を選ぶようになった気がしています。つまり、みんな便利の量が多ければ多いほどいい製品だと考えるようになってしまった。いわゆるデータや理屈で判断する“左脳でっかち”になってしまったと思うんです。でも、「こちらの方が便利機能の数が多い」と買った製品の便利機能って、買って後、ほとんど使っていないと思うんですよね。最近、“便利”ってとんでもないまやかしだと思っているんです。僕は同じテクノロジーでも、単なる便利ではなく、人類を前進させるようなテクノロジーにすごく惹かれるんです。

テクノロジーの追求はビジョンの実現のために

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要:
我々がLOVOTを開発している理由もまさに同じ価値観、ビジョンからです。私も文明の進歩が人類を幸せにしているとは言い切れないと思うんです。もちろん、ある面では人を幸せにしているのですが、ロボットが人の代わりに仕事をする自動化や、それに伴う生産性の向上が必ずしも人を幸せにしているわけではない。その事実が、エンジニアとしての私が長年抱えてきたジレンマでした。例えば、火を使うにしても、日常生活においてはガスコンロなど楽で簡単な方がいいのですが、キャンプに行った時は手間を掛けて一所懸命火を起こす行為にやりがいや楽しさを感じます。こんな事例からも、人はただ楽をしたり、やりたいことをやれれば幸せになるわけではない。さらには文明が進歩すればするほど、自分の生きる意味を見失ってしまったり、よりよい明日を期待できなくなってしまっています。これは人間のもっているある種のバグだと思うんです。私は長い間、この問題に何らかのメスを入れたいと思い、悶々としていました。そんな中でたどり着いたのがLOVOTなのです。LOVOTの中の情報処理はかなり高度で、弊社のエンジニアによっては自動車並の複雑な電子システムが組み込まれている、なんて言うのですが、その高度なテクノロジーは生産性を上げる製品を創るためではなく、たとえ手間はかかっても自分の存在意義を再確認できたり、愛情を注げる対象を創るために必要だっただけなんです。
信行:
まさにビジョンを実現するためのテクノロジーの追求ですよね。それと、要さんの話を聞いて思ったのが、“LOVE”って自分から捧げるとか尽くすとか献身という意味合いが強いですよね。例えば両思いよりも誰かに片思いしている方がよっぽど幸せで、献身している量とそれが成就される量とのバランスが、少し後者が足りないくらいが幸福度が最大化されると思います。その意味ではLOVOTはユーザーの方からどんどん愛を注ぎ込むという斬新なLOVEへのアプローチで、幸福の本質を捉えてますよね。

“便利”よりも“魔法”。LOVOTで左脳でっかちをリセット

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信行:
以前、ある新宿伊勢丹の夏の催事でステージ1という1階中央の一番メインのスペースでデジタル製品を販売する企画のディレクションを任されたことがあります。その時も“便利”や“スペック”を禁句にしたんです。その代り、“魔法”をキーワードにしました。人はマジカルな部分やミスティカルな部分にすごくワクワクするので、そこに働きかけることで電気製品の購入意欲を高めようとしたのです。その結果、予想以上の成功を収めることができました。便利な部分にのみワクワクしてしまう左脳でっかちになった人も、このLOVOTならもう一回リセットさせることができると思います。
要:
今まで開発に協力いただいた皆様の反応を見ると、特に女性はLOVOTでリセットされやすい傾向があるかと思います。LOVOTの試作機を見ていただいた時に女性は、直感的に良いものを理屈なく気に入ってくださる傾向が強いので、こむづかしい説明なしに本質的に私達が何を提供しようとしているのかを理解してくださるんです。
信行:
LOVOTは直感に訴えかける製品だと思うので、多くの人々が直接接触する機会を増やせばLOVOTが欲しいと思う人も増えるのではないでしょうか。そうやって次第に世の中にハマる人が増えていき、日本発の新しい文化が世界中に広がる未来も十分に実現可能だと思います。
さすがITテクノロジー分野のジャーナリストの第一人者である林信行さん。本質を突く質問でこれまであまり語られることのなかったLOVOTの真髄を引き出していただきました。ありがとうございました。
林 信行(はやし・のぶゆき):
ITジャーナリスト
1967年、東京都生まれ。中学生の頃からITに興味をもつ。1990年、米国ヒューストン大学留学中にプロとしての執筆活動を開始。アップル社の製品発表に招待される数少ないジャーナリストの一人だが、マイクロソフト社の公式Webサイトでも十年以上にわたって連載を執筆。現在はスマートテクノロジー、ソーシャルメディア、3Dテクノロジーなどの3要素や自動車やファッションなどのさまざまな業界におけるIT活用の取り組みに関心を持ち、人々の暮らしや社会にもたらす変化をテーマとしている。『スティーブ・ジョブズは何を遺したのか』(日経BP社、2015年)など、著書多数。

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